堀内 敏行 院長の独自取材記事
共助会医院
(板橋区/志村坂上駅)
最終更新日:2025/05/21

都営三田線・志村坂上駅から徒歩7分。板橋区小豆沢の閑静な住宅街に立つ「共助会医院」は、開業から65年以上にわたって、近隣住民の健康を支えてきた。2015年から院長を務める堀内敏行先生は、地域中核病院で内分泌疾患や糖尿病治療を専門に、長年研究と臨床に力を注いできた。日本糖尿病学会糖尿病専門医や日本内分泌学会内分泌代謝科専門医をはじめとする専門医資格を取得。豊富な経験を生かした専門分野だけでなく、先代である父が担ってきた内科や小児科、高齢者医療など、プライマリケアを実践し、患者に寄り添った診療をめざす。医療に対する真摯な姿勢や、パワフルで話上手なところも魅力的な堀内院長に、クリニックの強みや診療への思いをたっぷりと聞いた。
(取材日2025年4月22日)
見落とされやすい内分泌疾患を丁寧に診療
1959年に開業、歴史あるクリニックですね。

「共助会医院」は戦後、この地で財団法人の診療所として開業した医院です。5代目に私の父が院長になり、その後オーナーとなって1959年に新たに開業しました。私自身は大学卒業後、カナダのマギル大学に2年間留学し、カルシウム代謝の研究に従事しました。帰国後は長らく東京都の職員として都立病院に勤めていたんです。日本の中でも特に骨粗しょう症の患者さんが多く訪れる東京都健康長寿医療センターに13年、豊島病院には6年勤め内科部長をしていました。父の健康状態も鑑みて2015年に当院を継承。父親の代は内科や小児科といったプライマリケアが中心でしたが、現在は私の専門である内分泌や糖尿病などの生活習慣病、骨粗しょう症の診療も行っています。
先生のご専門についても詳しく伺います。
甲状腺・副甲状腺・下垂体・副腎・性腺といった内分泌疾患のほか、骨粗しょう症・認知症といった高齢者医療や糖尿病が私の専門分野です。内分泌疾患の中でも特にご相談が多いのが甲状腺疾患です。女性に多く見られ、首の腫れや眼球突出が現れて来院されます。このような場合はバセドウ病などの甲状腺機能亢進症が疑われます。橋本病など甲状腺機能低下症の場合はなんとなく体がだるい、寒気といった症状や、うつ状態や認知機能低下を引き起こす原因に、甲状腺機能低下症が隠れていることもあるのです。いわゆる不定愁訴として症状が現れることも多く、病院を受診しても見落とされてしまうケースが少なくありません。体重が急激に減ったことでがんが疑われたものの、実は副腎不全だったという事例も数多くありました。このように見落とされやすい病気を見つけることが内分泌代謝科専門医としての役割であり、強みだと自負しています。
内分泌疾患はどのように診療されるのですか?

一見よくある症状の裏に内分泌疾患が潜んでいることがあるので、患者さんの声によく耳を傾け、検査データを細かく確認することが重要です。当院では血液検査を行い、ホルモンや抗体、電解質ナトリウムやカリウムを詳しく調べた上で、必要があれば超音波検査も行って診断します。認知症のように見える場合も多いので、高齢者は特に注意深く診る必要がありますね。甲状腺疾患であれば、ホルモンを生成する甲状腺の働きを抑える目的で薬を用います。甲状腺機能低下症に対してはホルモン自体を処方し、適切にコントロールしていくための治療を行います。他にも、高血圧の中に内分泌性疾患が潜んでいることもあるんですよ。副腎腫瘍などによりホルモン異常が発生する原発性アルドステロン症の可能性があり、大学病院と連携して手術や治療につなげることも珍しくありません。
糖尿病や骨粗しょう症の診療、高齢者医療にも尽力
糖尿病や骨粗しょう症への取り組みについても教えてください。

糖尿病は食事や運動といった生活習慣の指導を基本に、必要に応じて薬によるコントロールを行います。月2回、土曜日には管理栄養士による栄養指導を行っていますので、当院に初めて来られた患者さんには受けていただくよう案内しています。また、1型糖尿病の患者さんも数人いらっしゃいます。1型糖尿病が進行するとインスリンがほとんど分泌されない状態となり、血糖値が激しく変動し、命にも関わる治療の難しい病気です。良好な血糖値の変動に近づけるため、インスリン療法による調整を行っています。骨粗しょう症についても、内分泌的関与の大きな病気です。女性ホルモンが骨の代謝を調節しているため、閉経により女性ホルモンが減少すると骨粗しょう症を発症しやすくなります。そこで、副甲状腺ホルモン剤を治療に用いるなど、整形外科とは違った視点からアプローチができるところも、内分泌代謝科専門医であるからこその特徴といえるでしょう。
認知症をはじめ、高齢者医療にも積極的に取り組まれています。
訪問診療はデイサービスでの診療と訪問看護を行っています。専門分野を診る病院勤務時代とは違って現在はさまざまなご相談がありますし、高齢の患者さんの数に比例して認知症の方を診る機会も増えました。認知症については介護保険申請を行い、訪問診療などでサポートしながらサービスを適切に利用していただき、ご本人やご家族が安心して暮らせる体制をつくることが重要なポイントだと思います。ただ医療を提供するだけでなく、ケアマネジャーや高齢者の相談窓口である地域包括支援センターなど、多職種の方々としっかり連携を取ることが重要です。父の代の頃は、寝たきりになった患者さんの往診や看取りを行っていましたが、その後は病院での看取りが主流となりました。現代は、慣れ親しんだ環境で最期を迎えたいという患者さんの思いから再注目されています。今後も地域のかかりつけ医として、支える医療を提供していきたいです。
診療を行う上で、また患者さんとのコミュニケーションにおいて大切にされていることを教えてください。

患者さんの話をよく聞いて、問診をすること。どういう理由から症状が出ているかを見極めることです。昔、私が師事していた先生がどのような医者が優秀かという話をしており「めまいだけで20個も病名が出てくるような人が良い」と言っておられました。多くの可能性を考えて、他にも症状が出ていないか、些細なことでも聞いていくことが大事だと考えていますね。また、特に高齢の患者さんは、その方の暮らしの実態をしっかり把握できるようなコミュニケーションの取り方を心がけています。適切な医療や介護を受けてもらうためには、食事や生活環境、独居かどうかなど、診療だけではわからない情報が大切です。大きな病院のようにソーシャルワーカーがいるわけではないので、いかに患者さんとの会話の中で普段の生活に関する情報を引き出すかが、より良いサポートの鍵となると思います。
社会的側面からもサポートする地域のかかりつけ医
なぜ内分泌疾患をご専門とされたのですか?

これは、本当にたまたまなんです。大学病院の医局に入る際、内分泌科の医局に配属されたことがきっかけです。本当は花形の循環器科に憧れを抱いていたのですが、いざ取り組んでみるとすごく奥深くて、「こんなに面白い医学の学問はない!」と感じ、研究と臨床に没頭するようになりました。内分泌に関する研究でノーベル医学賞を獲得した人も多く、医学的にも非常に重要な分野なんですよ。
こちらの院長に就任されて、やりがいなどはございますか?
「専門」から「総合」へと視野が変化しました。病院勤務時代は専門分野における診断と治療が私の仕事であり、科学的かつ生物学的な視点から理詰めで論理を展開していくことに面白さを感じていました。一方、現在は患者さんとより近い距離で接しながら、日常的に遭遇するあらゆる健康上の問題や疾病に対し総合的に対応しています。こちらで働くようになってから、病気を治療するだけでは駄目で、自立して暮らしていけるよう患者さんや介護職の方の生活を支える、という社会的な医療の重要性を痛感しました。患者さんの生活に踏み込み、人生そのものに関わる医療ですので、大変なことですが非常にやりがいのある仕事です。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

DX化の進展や制度の改正など、医療は日々どんどん変化していきますが、地域の方々を支えるかかりつけ医としての使命は変わりません。一歩一歩、皆さんにとってなくてはならない医療の提供をめざして地道に取り組みながら、これからも患者さんと一緒に歩んでいきたいと思います。どんなことでもお気軽に相談してくださいね。